2026年7月12日時点の情報に基づく
相続した実家、売るか貸すか——判断の分かれ目になる5つの数字
感情論をいったん脇に置くと、売るか貸すかの判断は5つの数字に集約されます。ここで示すのは全国一律の相場ではなく、あなたの物件の数字をどう調べ、どう見積もるかです。金額は物件によって大きく異なるため、この記事の数字をそのまま当てはめず、ご自身の物件で確認してください。
数字1: 賃貸に出す場合の初期投資
なぜこの数字が判断を分けるか。賃貸に出すには、多くの場合、原状回復や設備の更新が必要です。この初期投資が大きいほど、賃料収入で回収するまでの期間が延び、貸すことの割の良さが下がります。
自分のケースでの調べ方・見積もり方。管理会社や工事会社に、「このまま賃貸に出す前提で、何にいくらかかりそうか」を見てもらうのが最初の一歩です。給湯器やエアコンなど設備の年式、水回りの状態、クロスや床の傷み具合によって、必要な工事の範囲は物件ごとに変わります。複数社から見積もりを取ると、工事範囲の違いが見えてきます。
数字2: 想定賃料と表面利回り
なぜこの数字が判断を分けるか。賃料収入が初期投資や保有コストに見合うかどうかは、表面利回り(年間賃料 ÷ 初期投資や物件価格)で大まかに判断できます。この数字が低ければ、貸すより売った方が合理的というケースも出てきます。
自分のケースでの調べ方・見積もり方。賃貸ポータルサイトで近隣の似た条件(築年・広さ・設備)の募集賃料を確認するか、管理会社に賃料査定を依頼します。相場を自分で調べる方法で紹介した「募集価格と成約価格は別物」という論点は、賃料でも同じように当てはまります。なお、管理会社への賃料査定は、売却の査定と同じく無料で受けられるのが一般的です。
数字3: 保有コスト
なぜこの数字が判断を分けるか。貸すか売るか、あるいは判断を先送りするかにかかわらず、所有し続ける限りかかり続ける費用です。売却で得られる金額や賃料収入と比較する際の基準になります。
自分のケースでの調べ方・見積もり方。固定資産税・都市計画税は、毎年送られてくる課税明細書で確認できます。空き家のまま管理を委託する場合の管理費用は、管理サービス会社に見積もりを依頼します。
注意点。空き家を放置すると、自治体から「特定空き家等」に指定され、固定資産税の住宅用地特例が解除されるなど、保有コストが上がるリスクがあります。
数字4: 今売った場合の手取り
なぜこの数字が判断を分けるか。貸す・保有し続けるという選択肢と比較するには、「今売ったらいくら手元に残るか」という基準点が必要です。
自分のケースでの調べ方・見積もり方。想定売却価格が分かったら、シミュレーターに入力すると、税金や諸費用を差し引いた概算の手取り額が分かります。想定売却価格の調べ方はこちらの記事にまとめています。
数字5: 特例の期限——貸す判断は特例の放棄を含む
5つの数字の中で、これだけは相場の話ではなく制度の話であり、確定的に言えます。
空き家特例(相続空き家の3,000万円控除)の要件のひとつに、「相続開始の時から譲渡の時まで、事業の用・貸付けの用・居住の用のいずれにも供されていたことがないこと」があります。つまり、一度でも賃貸に出すと、その時点でこの特例の要件を満たさなくなります。
ここが本記事の核心です。「とりあえず貸してみる」という判断は、単に賃料収入を得るかどうかの選択ではなく、空き家特例(最大3,000万円の控除)を使う権利を手放す選択を、同時に含んでいます。この特例には「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」という期限もあり、一度手放すと後から取り戻すことはできません。貸すかどうかを決める前に、この不可逆性だけは必ず理解しておいてください。
数字にできないもの
家族の意向や、実家への愛着は、数字に置き換えられません。しかし、これらも正当な判断材料です。5つの数字がどう出ても、「今はまだ手放したくない」という判断があってよく、本サイトはどちらか一方に誘導するものではありません。
よくある質問
Q. とりあえず短期間だけ賃貸に出してから、あとで売ることはできますか?
A. できますが、空き家特例(3,000万円控除)を使う予定がある場合は注意が必要です。相続してから譲渡するまでの間に一度でも賃貸に出すと、この特例の要件を満たさなくなります。「とりあえず貸す」が、意図せず特例を放棄する選択になっていないか、判断する前に確認してください。
Q. 迷っている間は、何をしておけばいいですか?
A. 5つの数字のうち、保有コスト(数字3)と特例の期限(数字5)は、賃貸に出すかどうかを決める前でも調べられます。特に特例の期限は動かせないため、方針が決まっていなくても、まず期限だけは把握しておくことをおすすめします。
Q. 5つの数字を自分で埋めるのが難しい場合、誰に相談すればいいですか?
A. 初期投資や賃料の見積もりは不動産会社・管理会社、保有コストや税金の見通しは税理士や本ツールが助けになります。特例の適用可否や、共有名義など事情が複雑なケースは、個別に確認が必要です。
根拠
- 国税庁タックスアンサー No.3306(相続空き家の3,000万円特別控除の特例)
本記事は国税庁が公表する情報に基づく一般的な税制の参考情報であり、個別の税務相談・税額の確定ではありません。特例の適用可否や申告については、税務署または税理士にご確認ください。