2026年9月4日時点の情報に基づく
空き家特例(3,000万円控除)の要件——老人ホーム入所・マンションは?
相続した空き家を売却するとき、要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できる「空き家特例」(措法35条3項)。例えば譲渡所得が3,000万円ある人がこの特例を使えれば、課税譲渡所得が0円になり、本来かかるはずだった税額(長期譲渡なら概算で約600万円)がまるごと不要になる可能性があります。適用期限は令和9年12月31日までの譲渡です。
目次
使える条件の全体像
要件は数が多く逐条で読むと挫折しがちですが、実際は「物件の条件」「亡くなった方の条件」「売り方の条件」の3つのグループで捉えると整理しやすくなります。以下は自己診断用のチェックリストです。各項目の判断のポイントもあわせて確認してください。
控除額は、要件を満たす場合で譲渡所得から最大3,000万円です。ただし令和6年1月1日以後の譲渡では、相続人が3人以上いる場合は1人あたり2,000万円になります(2人以下なら1人3,000万円)。共有名義で複数の相続人が売却する場合は、この人数要件もあわせて確認しておく必要があります。
① 物件の条件
昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
○:登記事項証明書や課税明細書で建築年を確認できる △:建築時期が不明な場合は個別確認が必要
区分所有建物登記がされていないこと(分譲マンションは原則対象外)
○:戸建てなど区分所有登記のない家屋 ×:分譲マンションは原則として対象外
② 亡くなった方(被相続人)の条件
相続開始の直前まで、その家に一人で住んでいたこと(老人ホーム等への入所は一定要件のもと例外あり)
○:一人暮らしだった △:老人ホーム等に入所していた場合は要件を個別確認(下記で詳しく解説) ×:同居家族がいた・人に貸していた
③ 売り方の条件
相続または遺贈により家屋(とその敷地)を取得したこと
○:相続・遺贈による取得 ×:生前贈与など他の方法での取得
相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること
△:相続開始日によって期限が変わるため個別に計算が必要(シミュレーターで自動計算できます)
譲渡対価が1億円以下であること(分割譲渡や共有名義の場合は合算して判定)
○:単独譲渡で1億円以下 △:共有名義や分割譲渡がある場合は合算額での判定が必要
相続から譲渡まで、事業・貸付け・居住のいずれの用にも供していないこと
○:相続後ずっと空き家のまま ×:短期間でも賃貸や事業用に使ったことがある
耐震基準に適合しているか、取り壊してから譲渡すること
△:耐震基準への適合状況は個別確認が必要。取り壊してから売る場合はこの要件を心配する必要はありません
第三者への譲渡であること
△:親族への売却を検討している場合は要件を満たさない可能性が高く個別確認が必要
※本記事の一般的な要件説明・上記のチェックリストは、個別の税務判断を保証するものではありません。
○の数が多いほど一般的な要件に照らして充足している可能性が高くなりますが、△が付く項目は書類や個別の事情による確認が欠かせません。相続開始日と売却予定額を入力すると、期限の自動計算と特例あり/なしの税額差までまとめて試算できます。
あなたのケースで空き家特例が使えるか、税額はいくらか3分で試算する老人ホームに入所していた場合(措法35条3項・No.3307)
亡くなった方が老人ホーム等に入所していた場合でも、空き家特例の対象になり得ます。その前提となるのが「特定事由」と呼ばれる要件で、要介護認定・要支援認定(または一定の障害支援区分の認定)を受けて老人ホーム等に入所していたことが必要です。
認定を受けているタイミング
この認定は、相続開始の直前——つまり亡くなった時点で受けている必要があります。健康な状態のまま老人ホームに入居し、その後に認定を受けた場合は、この特定事由には該当しません。
要介護度は問われない
要介護1〜5のどの区分であるかは問われず、要支援の認定でも対象になり得ます。
対象になる施設
認知症高齢者グループホーム、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、サービス付き高齢者向け住宅など、老人福祉法・介護保険法等に規定された施設が対象です。
入所後の家屋の使い方
老人ホーム等への入所後、相続開始の直前まで、その家屋を事業の用・貸付けの用・被相続人以外の方の居住の用に供していないことが必要です。被相続人本人や、生計を一にする親族が使用していた場合は、この要件には抵触しません。
※これらの要件は介護保険の認定資料等の書類で個別に確認する必要があるため、一般的な要件に照らした可能性の提示に留まります。実際の適用可否は税務署または税理士にご確認ください。
つまずきやすい2つの論点
マンションは対象外
空き家特例は「区分所有建物登記がされていない」ことが要件のため、分譲マンションは原則として対象外です。実家がマンションだった場合、この特例は使えないと考えて他の選択肢(通常の取得費控除など)を検討することになります。
耐震基準と「取壊して売る」ルート
建物を残したまま売る場合は耐震基準への適合が必要ですが、昭和56年以前建築の家屋は基準を満たしていないことも多く、その場合は取り壊してから土地として売却するのが現実的な選択肢になります。解体して売る場合の費用と流れは、家を解体して売る記事で詳しく解説しています。また令和6年1月1日以後の譲渡では、譲渡の翌年2月15日までに買主が耐震改修または取り壊しを行った場合も要件を満たせるよう緩和されています。
期限——相続開始から3年経過年の12月31日
適用期限は「相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」です。例えば令和5年6月に相続が発生した場合、期限は令和8年12月31日になります。年をまたぐと期限が変わるため、年末に近い時期の売却では特に注意が必要です。
制度自体の適用期限(令和9年12月31日までの譲渡)とは別の期限であることにも注意してください。ご自身の場合の残り期間は、シミュレーターで相続開始日を入力すると自動計算されます。
取得費加算の特例とどちらが得か
相続税を払った人が一定期間内に相続財産を売却した場合に使える「取得費加算の特例」(措法39条)は、空き家特例とは選択適用(併用不可)の関係にあります。どちらも成立し得るケースでは、どちらが有利かを個別に比較する必要があります。この比較は変数が多く一般論では判断できないため、シミュレーターで両方の該当可能性を確認したうえで、税理士にご相談いただくことをおすすめします。
特例が使える価値のある物件か、買取価格を確かめる
空き家特例が使えるかどうかは、そもそもいくらで売れる物件かによって、控除の恩恵の大きさが変わります。老朽化や再建築の制約がある空き家は、通常の仲介より買取専門の査定の方が話が早いケースもあります。
手続きの流れと必要書類
この特例を使うには、家屋の所在地の市区町村から「被相続人居住用家屋等確認書」の交付を受け、確定申告書に添付する必要があります。確定申告の直前ではなく、それより前の段階で市区町村へ申請しておく必要がある点に注意してください。
添付する書類は状況により異なりますが、登記事項証明書、耐震基準に適合していることを証する書類(取り壊す場合は不要)、売買契約書の写しに加えて、老人ホーム等に入所していた場合は介護保険の被保険者証等の写しや老人ホームが発行する入所を証明する書類の写し、電気・ガスの使用中止日が確認できる書類なども求められることがあります。
これらの要件自体は全国一律ですが、確認書の様式や必要書類、発行までにかかる日数は市区町村ごとに運用が異なります。特に介護認定や使用中止日を示す書類は時間が経つほど入手が難しくなるものもあり、確認書の交付にも日数がかかるため、特例の利用を検討し始めた段階で早めに家屋所在地の市区町村の窓口やホームページで必要書類・手続きを確認しておくことをおすすめします。
詳細な様式や提出先は各市区町村のホームページ、制度全体の案内は国土交通省「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」のページで確認できます。
空き家特例はあくまで相続不動産を売る流れの中の一部です。相続登記や査定、確定申告まで含めた相続した不動産の売却全体の流れもあわせてご確認ください。
よくある質問
Q. 相続人が3人以上いる場合、控除額はどうなりますか?
A. 令和6年1月1日以後の譲渡では、相続人が3人以上の場合、控除額は1人あたり2,000万円になります(2人以下なら1人3,000万円)。人数によって総額の扱いが変わるため、共有名義での売却を検討している場合は特に確認が必要です。
Q. 譲渡価額が1億円を超えそうな場合はどうなりますか?
A. 空き家特例は譲渡対価が1億円以下であることが要件です。分割して譲渡した場合や共有者がいる場合は合算して判定するため、超えそうな場合は個別に確認が必要です。
Q. 相続後、少しの間だけ賃貸に出してしまいました。それでも使えますか?
A. 空き家特例は「相続の時から譲渡の時まで事業の用・貸付けの用・居住の用に供されていたことがないこと」が要件の一つです。短期間であっても賃貸に出した実績があると、この要件を満たさない可能性が高くなります。個別の状況によるため、税務署または税理士にご確認ください。
Q. 亡くなった方が老人ホームに入所していた場合、この特例は使えますか?
A. 要介護認定・要支援認定(または一定の障害支援区分の認定)を相続開始の直前に受けて老人ホーム等に入所しており、入所後もその家屋を事業・貸付け・被相続人以外の方の居住の用に供していなければ、空き家特例の対象になり得ます。認定の有無や施設の種類など個別確認が必要な要件が多いため、詳しくは本文の該当セクションと国税庁タックスアンサーNo.3307をご確認ください。
Q. 老人ホームの入所要件にある「認定」は、入居時と亡くなった時のどちらの時点で必要ですか?
A. 認定は相続開始の直前、つまり亡くなった時点で受けている必要があります。健康な状態のまま老人ホームに入居し、その後に認定を受けた場合は、この特定事由には該当しません。
Q. 実家がマンションの場合、空き家特例は使えますか?
A. 空き家特例は「区分所有建物登記がされていないこと」が要件のため、分譲マンションは原則として対象外です。実家がマンションだった場合は、通常の取得費控除など他の選択肢を検討することになります。
Q. 家が耐震基準を満たしていない場合はどうすればいいですか?
A. 建物を残したまま売る場合は耐震基準への適合が必要です。適合していない場合は、取り壊してから土地として売却するのが一つの選択肢です。また令和6年1月1日以後の譲渡では、譲渡の翌年2月15日までに買主が耐震改修または取り壊しを行った場合も要件を満たせるよう緩和されています。
Q. 相続税の取得費加算の特例と、空き家特例はどちらを使えばいいですか?
A. この2つは選択適用(併用不可)の関係にあります。どちらも成立し得るケースでは、どちらが有利かを個別に比較する必要があるため、シミュレーターでの試算や税理士への相談をおすすめします。
Q. 「被相続人居住用家屋等確認書」はどこでもらえますか?
A. 家屋の所在地の市区町村で交付を受けられます。確定申告の直前ではなく、それより前の段階で申請しておく必要があり、必要書類や発行までの日数は自治体によって異なります。早めに窓口やホームページで確認しておくことをおすすめします。
根拠
- 国税庁タックスアンサー No.3306(相続空き家の3,000万円特別控除の特例)
- 国税庁タックスアンサー No.3307(老人ホームに入所している場合の取扱い)
- 国土交通省「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」制度案内ページ
本記事は国税庁が公表する情報に基づく一般的な税制の参考情報であり、個別の税務相談・税額の確定ではありません。特例の適用可否や申告については、税務署または税理士にご確認ください。